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人から人へ、手から手へ

アグロエコロジーと世界の飢餓

 機械化された大規模企業経営モノカルチャー農業モデルこそが世界を困難に陥れているという問いが生まれています。

飢餓を生み出すアグリビジネス

 
 たとえば南北米大陸で展開されている大規模農業は100ヘクタールあたり、2人の職しか生み出さないといわれます。大規模農業は政府の農業支出のかなりの部分を得ていますが、しかし、食料生産に貢献する割合は多くはありません。機械を使って、化学肥料や農薬を投入して、生産性が高いというイメージがこうした大規模農業にあるかもしれませんが、小規模家族農業に比べて単位当たりの生産量は高くないのです。
 
 そして、この大規模農業が維持可能であるかについても大きな疑問が突きつけられています。化石燃料に依存しているがゆえに維持可能でないという面はすでに見てきました。それだけでなく、こうした大規模機械化農業が土壌を壊してしまうため、農耕ができなくなっていく可能性も指摘されています。

 特にアジア、ラテンアメリカ、アフリカの地域では大規模モノカルチャー開発のために、小農民が土地を失うケースが多数報告されています。土地を奪われた小農民は都市に流れて、スラム住民となって、わずかな仕事にありつくしかなく、貧困層の拡大、飢餓の深刻化が大きな問題となっています。
 
 以前、国際機関では農業は大規模な経営にすることによって効率化し、小農民はいなくなっても高い生産性の上がった大規模農業が世界の農業生産を支えると考えてきました。しかし、大規模モノカルチャー農業モデルの先に未来がないことが2007年、2008年に世界を襲った食料危機ではっきりしました。今では国連食料農業機構(FAO)も国連貿易開発会議(UNCTAD)も大規模モノカルチャー農業ではなく、小規模家族農業こそが世界の飢餓、貧困対策になると政策を変更するに至っています。

 世界の7割の食料生産を支えているのは今なお小農民(家族農家)です。こうして、この小規模農業を発展させるアグロエコロジーに世界の注目が注がれるようになってきました。

 また緑の革命によって作られる作物は米、小麦、トウモロコシなど、少量品種の大量生産になります。かつての多種多様な作物の生産がこうした単一種の生産に変わった結果、以前に比べ、ミネラルやビタミンなどの栄養の摂取が困難になり、栄養失調が深刻になってきました。多品種の作物の生産を可能にするアグロエコロジーは栄養面での改善にも貢献できます。
 

世界の食料不足と人口増大

 現在もなお9億2500万人が世界で飢餓に苦しんでいると言われています。この飢えている人たちを救うために食料の増産が必要だと叫ぶ人がいます。しかし、一方で世界の人びとが十分な栄養に取れる生産量を現在の世界の農業は生産しています。一方で、先進国では多くの食料が食べられることもなく廃棄されています。
 
 必要なのは食料の増産ではなく、食料の公正な分配であり、廃棄されずに行き届く配布のシステムです。もし、現在の大量生産、大量消費、大量廃棄のシステムを変えずに、これ以上の増産をすれば世界の環境にさらに負荷をかけ、将来的な生産をも危うくしてしまう可能性が大きくなってしまいます。

 しかし、世界の人口はもうじき90億になると言われています。この人口増大にどう対応できるのでしょうか?
 
 まず人口がなぜ急激に増大するかを考えてみましょう。女性の子どもを生む権利、出生をコントロールする権利が満たされない貧困地域では女性は子どもを何人も産み、その人口増がさらなる貧困の原因となっていきます。しかし、女性の権利が確保されていくとその社会の人口増は和らいでいきます。女性の権利をいかに確保するかが人口問題で決定的な重要性があります。

 伝統的な食料生産においては女性は大きな役割を果たしてきました。女性は世界の多くの地域で、種子の管理、命を育む過程に女性がメインの役割を担ってきました。しかし、機械化された大規模農業においては女性の多くはその役割を失います。「緑の革命」は女性の役割を奪っていきました。その結果として女性が権利を失うことになってしまいます。
 
 女性の権利を保障していくことがまず、この人口問題の最大の優先課題となります。その意味でも緑の革命とその延長線上にある大規模モノカルチャーによる食料生産では世界の飢餓問題は解決できないのです。アグロエコロジーは伝統的な食料生産における女性の役割に光をあてます。ここにもアグロエコロジーが世界の飢餓の解決策たるゆえんがあります。
 

生産性は低いのでは?

 アグロエコロジーは生態学の農業への適用と定義されます。伝統的な農民の知識をフルに生かしますが、決して単なる古い農業への復古ではありません。最新の科学の知見を農業に生かします。国連食料への権利特別報告者オリバー・デ・シュッター氏の報告によると、アグロエコロジーの適用により、286のプロジェクトで平均79%の収穫増が認められたとのことで、十分高い生産性が認められています。
 
 このようにアグロエコロジーは世界の飢餓問題に対して有効な方策であり、それゆえ世界で注目を浴びているのです。

(公開日:2014年2月1日)

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