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人から人へ、手から手へ

種子・生物多様性・食料主権

米国の農業多様性の消失。ナショナルジオグラフィック米国では農業での生物多様性(農業で栽培している種子の種類)が1903年から1983年までに93%が失われたといいます(右図)。世界全体でも1900年から2000年の100年に75%が失われていると言われています()。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか?

古来、世界の農民は種子を自ら保存し、それを来年の耕作に使い、農耕を毎年続けてきました。地域ごとに異なる種子が使われ、多様性が保たれてきました。しかし、近年、種取りを行わず、種子企業から買うことが多くなり、そうした多様性は急速に失われていきます。

種子の多様性は気候の変化に対応したり、病虫害を抑えるのに重要な役割を果たします。しかし、今、それが急速になくなってきています。この多様性こそ、人類の生存を確保していく上で貴重な資源であると国連食糧農業機関(FAO)などはその重要性を語っていますが、現在の世界の政治は種子の多様性を守ることに反対の方向に向かっています。

種子と農薬市場のシェア

種子と農薬での遺伝子組み換え企業の独占率 ETC Groupのデータから作成

90年代後半以降、世界の種子市場はモンサントなどの多国籍企業によって買収が進み、現在66%の市場がこの6社(すべて遺伝子組み換え企業)によって独占されてしまっています()。さらにこの傾向に拍車をかけるのがTPPなどの自由貿易交渉です。WTOなどの機関を通じて「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」が作られ、自由貿易交渉の中で、多国籍企業が持つ知的所有権の遵守が世界の国々に強いられます。その中で、種子企業の特許を守るために、農民が種取りすることを禁止し、毎年種子企業からの購入を義務付ける法律が制定されようとしているのです。

多くの小農民が伝統的な種取りを続けているラテンアメリカやアフリカの国々にも種子を種子企業から買わなければならないとする法案が押しつけられていきました。種子企業の多くはモンサントなどの多国籍企業に買収されているため、農民たちは種子の権利を失った上、外国の企業から種子を買わなければならなくなってしまいます。しかし、農民たちは黙ってはいません。

この法律は2012年3月にメキシコに登場し、種子市場でトップを走るモンサント社を利するものだとして「モンサント法案」と呼ばれて、国中の反対で廃案となりました。2013年8月にはコロンビアでこの法律が実施されてしまいます。農民の権利を奪うこの法の施行に怒ったコロンビア農民の抗議行動の前に、コロンビア政府はこの法の施行を2年間凍結せざるをえませんでした。チリでは2013年7月以来国会で大きな反対運動が拡がり、2014年1月現在、この法案は成立していません。

一方、EUでもこうした法律が制定されようとして大きな反対にあっています。

人類共有財産としての種子の権利を守る

種子は人類の共有財産であり、農民の権利であるとする食料・農業植物遺伝資源条約(正式名称:食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約)が作られ、すでに129カ国とEUが署名しており、日本も2013年に署名をしています。一方、多国籍企業の種子の特許を認めるUPOV条約の批准国は51カ国に過ぎません。世界の流れは必ずしも多国籍企業の言うがままではないといえるでしょう。
食料・農業植物遺伝資源条約vsUPOV条約批准国数比較
企業にとっては多様な種子を管理するよりも収益を上げる特定の少量の種子を大量生産することに集中してしまうことでしょう。ですから種子の多様性を守っていくには農民の種子の権利を守ることが何より重要です。地域の文化や気候にあったタネを農民が守り、その決定権を守ること、こうした種子の権利を守る動きがアグロエコロジー運動の中で重視されています。

食料主権を考える

世界中の多くの国の人びとにとって食料主権という言葉は自分たちの生存権と密接に結びついた重要な言葉です。でも日本ではそれはぴんとこない言葉になってしまっているかもしれません。

世界で生態系や社会が壊されています。多国籍企業のアグリビジネスが押しつけるモノカルチャーや安い食肉を作るファクトリー・ファーミングは世界中の航空機・自動車・鉄道よりもはるかに多くの気候変動要因となっています。このまま行けば世界の安定した気候は破壊され、飢餓が生み出されていくことが危惧されます。

世界の生態系と社会を壊している中心勢力は多国籍企業のアグリビジネスであり、彼らは世界の農業生産のあり方を企業の都合のいいように変えようと世界大のロビー活動を展開しています。

自然を守り、生産者を守り、消費者を守ることこそ、食料主権を守ることになります。そのためには多国籍企業による横暴から食料生産を守らなければなりません。その活動は決して国境に区切られることはできないでしょう。国境を越えて、自然と生産者と消費者を守っていくこと、多国籍企業の横暴から世界の地域の食料生産を守れ、というべきなのではないでしょうか。

こうしたアグリビジネスと闘い、自然と社会を守る大きなうねりが世界で生まれてきています。それがアグロエコロジーと呼ばれる大きな流れです。小さき民同士が結びついて大きな潮流となっていたものです。これに日本も連なっていくことはとても重要だと考えます。


(公開日:2014年2月1日)

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