アグロエコロジーと気候変動
第2次世界大戦後、世界の農業のあり方が大きく変わる出来事が起きます。「緑の革命」と呼ばれる化学肥料と農薬を使った農業のあり方です。
戦争で巨大化した化学企業
化学肥料は窒素、リン酸、カリウムの3つが主要な成分です。この中の窒素は火薬を作る上でも不可欠な成分です。この窒素は第一次世界大戦前までは鉱山から取れる硝石に頼ってきました。この事態を変えるのがドイツのBASFという化学企業です。空中の窒素に水素を高圧下で反応させて、アンモニアを作り、そこから窒素を得ることを可能としました。リン鉱石資源を持たないドイツが長い戦争に耐えられた背景にはこの技術があったと言われます。
戦争が続く中、窒素を作る化学企業の生産力は大きくなっていきます。そして第二次大戦後、その生産力をつぎ込んだのが農業分野や食品加工の分野となります。
化学肥料を与えることで農作物は急速に育ちます。しかし、同時に病虫害に弱くなり、それに対処するために農薬(殺虫剤や除草剤、除菌剤)が必要となっていきました。
化石燃料に頼る農業の世界化
この化学肥料のための窒素を作るためには大量の天然ガスを必要とします。化学肥料で必要なもう1つの成分、リン酸は今もリン鉱石に依存しています。農薬を作るためには石油が必要です。この「緑の革命」が世界に広められる中で、化石燃料に依存する農業が拡大していくことになります。
その中で本来農業と関係のなかった化学企業が農業と深く関わるようになります。その化学企業とはモンサント、デュポン、BASF、バイエルなどの企業です。それは現在すべて遺伝子組み換え企業となり、世界の種子企業の買収を通じて、世界の農業に大きな影響を与える存在になっていきます。
世界の気候変動に大きく関わる農業
こうした農業が持続可能ではないことは言うまでもありません。石油も天然ガスもリン鉱石も限られた資源です。そしてそれを大量に使う農業は世界の気候変動の激化にも大きな影響を与えています。
市民組織Grainによると農業セクターが関わる気候変動ガス排出の割合は44%から57%に及んでいる可能性を指摘しています(右図)。
また、最近、世界で安い肉への需要が急激に伸びています。工場のような施設に鶏、豚、牛を詰め込んで生産するファクトリー・ファーミング(工場式畜産)が拡大しています。しかし、こうした畜産からは大量の気候変動ガスが排出されます。その量は国連によると航空機、自動車、鉄道すべてを合わせたよりも多くなっているというのです。
畜産は適度なレベルであればリン酸などの作物が必要とする栄養素を循環させる上で重要な役割を果たしますが、過度の肉食は気候変動にも大きな影響を与えることになってしまいます。
安価な食品を大量に求める現在の農業が近年激しさを増している気候変動にいかに関わっているかを理解いただけることと思います。
気候変動を食い止めるアグロエコロジー
こうした化石燃料に依存せず、生態系が持つエネルギーを効果的に用いるアグロエコロジーはこうした気候変動を食い止める上で注目されています。
参考:
- GRAIN: Food and climate change: the forgotten link 食料生産と気候変動の忘れられたリンク
- Animals Australia: What is factory farming? – Us and the planet ファクトリー・ファーミングとは何か? 私たちと地球 (YouTube)
(公開日:2014年2月1日)